特別支援教育を理解する標準のテキスト
本書は、全国特別支援学校長会の先生方が執筆され、特別支援学校における介護等の体験に関するテキストとして発行されました。
平成10年の教育職員免許法等の改正に伴い、「介護等の体験」が始まる時期に合わせて発行された著作です。これまで、特殊教育から特別支援教育への転換、制度改正といった激動の時期にも遅れをとることなく、標準テキストとして改訂を重ねてきました。
今回の改訂は、これからの特別支援教育にとって、重要な教育課題であるインクルーシブ教育のポイントを徹底解説し、「インクルーシブ教育システム版」として発刊されました。
キーワードは「体験」と「共生」
改めて、本書に示されている「介護等体験の意義を考えてみると、「体験」と「共生」という2つのキーワードが浮かび上がってきます。介護体験は、まさに「体験」することを学びます。本書には、体験を通して学んだことについて、学生たちのレポートが記されています。障害のある方への学生や私達の態度には、正解があるわけではありません。指導されて身に付くというよりは、必要なことを体験することで意識や行動が深まっていくはずです。
2つ目のキーワードは「共生」です。本書には、「介護等の体験」の趣旨について、「個人の尊厳と社会連帯の理念に関する認識を深めることの重要性」を体験してほしいと記されています。また、障害のある子供との関わり方についても丁寧に解説されています。読者に対して、執筆者が、自分とは異なる他者を認めること、障害の有無や年齢、性別にかかわりなく相互に助け合い、支え合っていくことについて、その大切さを語りかけているようです。まさに、本書には、この体験学習が「共生」を学ぶ貴重な機会であることが示されています。
特別支援教育に関する格好の解説書
「介護等の体験」の意義を振り返りながら、本書改訂版のテーマである「インクルーシブ教育システムの構築と特別支援教育」の箇所を読み進めていくと、「体験」と「共生」という2つのキーワードも、このテーマに当てはまることに気づきました。
本書では、「インクルーシブ教育システムの構築」についての動向がつぶさに理解できるように解説され、巻末の参考資料には、最新のインクルーシブ教育関係の文部科学省による通知文書が掲載されています。講読しながら、同時に通知文書も読むことができます。とても読みやすい上に、理解しやすい体裁となっています。
本書は、教員志望の学生のみならず、小・中学校等の教員、すでに特別支援教育に携わっている教員にとっても、格好のガイドブックとして貴重な1冊であると思います。
(千葉県立八千代特別支援学校 尾﨑 至)
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